病的に気の弱い猫との 掛けがえのない暮らしの記録 

 (アイマスクをしてタヌキ寝入りを決め込む、よそんちの猫↓ 隣り村にて撮影)

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今日の記事は、昔ペット族に人気のあった『犬ばか・猫ばか・ペットばか』(「週刊朝日」)に掲載された私のエッセイに、手を加えてリニューアルしたものです。ついでにタイトルも変えました。

古いですが、しかし普遍的なテーマを扱ったつもりなので賞味期限はありません。(^^;

再スタートしたこのブログにも、これを収録しておきたいと思います。

  

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             『わが家の猫は名セラピスト』

たまらなく猫と暮らしたくなった。
だが、ノラのいないこの辺りでは仔猫を見つけるのも簡単ではない。

さーて、どうするかな?

思案しているところへ、まだ里親の決まらない5カ月のシャム猫がいるという情報が飛び込んできた。

「血統書つきですが、かわいがってもらえれば、ただで差し上げます」

こんなうまい話はない。私は即座に飛びついた。

「でも、風邪を引いてしまって‥‥」とのことで、うちに来るのは少し先になりそうだ。

それでも私はウキウキしながら、猫を迎える部屋の準備を愉しんだ。

ベッドにハウスに遊び台。それから縄をかけた爪とぎポール。みんな夫の手作りだ。


ついにその日がやって来た。

やっとスイスでも猫との愉しい暮らしが始まるぞ!
‥‥と思いきや、とんでもない。「忍耐」の上に「忍耐」を積み上げていくような日々の始まりだったのである。

異常なほど臆病なのだ。

猫の部屋のドアにほんの少し触れただけで、あっという間に家具と床の隙間にもぐり込んで出てこない。
覗くと怯えた目をして震えている。

「だーいじょうぶ大丈夫」と言い聞かせながら、隙間に腕を突っ込んで撫でてやること三日間。

少しは信頼してもらえたかな? 

四日目には引っ張り出して膝の上に乗せてみた。
とたんに腰を抜かしてフニャフニャになってしまった。


「この哀れな猫に幸いあれ」
そんな願いをこめて「幸」と名付け、サッちゃんと呼ぶことにした。
そして私はこの猫のセラピストになる覚悟をきめたのだった。

どうやらサッちゃんの目には、人間が獰猛な怪獣に見えるらしい。
だから撫でてやるにしても、咄嗟に腕を突き出すのは禁物。腰を落としてできるだけ低い位置から甘い声をかけながら、スローモーションで腕を伸ばすのがポイント。

とは言え、どうしても強引な態度に出なければいけないときがある。
その一つが年に一度の予防注射だ。

天地がひっくり返るほどの恐怖に襲われるサッちゃんは、キャリーボックスの奥で逆立ちして「終末のポーズ」で構える。つまり、頭を左角の床面に、後ろ足は右角の天井面にペタッと貼り付けるのだ。

だがそれも、診察台に上げられ先生とナースに包囲されるやいなや、「もはや、これまで」と観念するのか、腰を抜かしてフニャフニャになる。


腰を抜かすと言えば、サッちゃんが1歳の頃、こんな騒動があった。

夫に腹をたててギャーギャーわめき散らす私に、彼は人差し指を自分の唇に置いて、顎と目線で私の後方をさし示した。

振り向くと、私のデカい声に仰天したのか腰を抜かしてしまったサッちゃんが、焦点の合わなくなった目を宙に浮かせてシャーシャーおもらしをしている最中だった。

その日を境に、わが家からは私のわめき声が消えた。
懲りてしまった私は、ナイショ話でもするようにヒソヒソと夫に文句を言うようになったのである。


そんな私の努力が実ったのか、少なくとも我々夫婦の前ではサッちゃんも腰を抜かすようなことはなくなった。

それどころか、こわ色をつかって甘えてきたり、すねてみせたり、おねだりしたりと、見違えるほど豊かな表情をみせてくれるようになった。

ある日、私はヒソヒソ声で夫に言ってやった。

「ねっねっ、どんなもん!? 私のセラピーも、まんざら捨てたもんじゃないでしょ? エヘッ」

夫はそんな私を無視して、膝の上でウトウトしているサッちゃんに、そっとささやきかけた。

「サッちゃん、君こそ名セラピストだよ。えらいえらい。
おばちゃんの頑固なヒステリー、治しちゃったんだもんねぇ」

んっ?

まごつく私に、夫はウインクを送ってきた。

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